イエナプラン教育とは

オランダ・イエナプラン教育の特徴・キーワード


1. リビングルームとしての教室
イエナプラン校では、教室をリビングルームとして捉える。教室は、毎年、新学年度が始まるたびに、その教室の担任であるグループ・リーダー(教員)と、クラスの子どもたちが共に話し合いながら、教室の内装を整えていく。教室には、異年齢の子どもたちが共に座る席やグループリーダーの事務机のほか、読書用のソファーが設けられたコーナーや情報検索用のコーナーがある。また、背後の壁や、廊下と教室の境部のガラス窓の部分にディスプレー用の空間を設け、子どもたちが学びながら自分たちの教室の環境を独自に整えていくことができるようにしている。さらに、共同で作業をする場として、教室の中心には作業テーブルがおかれることが多い。教室の中の机などの家具は、子どもたちが動かしやすい軽い材質を使い、グループリーダーと子どもたちが、いつでもサークル(車座)に座って話し合いができるようにしてある。

 <リビングルームとしての教室図>

ひとつの教室には3学年の生徒が一緒になり「根幹(ファミリー)グループ」を作る。
その中で、生徒はさらに、テーブルグループに分かれる。テーブルグループでも、
必ず、3学年の子供たちが一緒になって勉強する。 


2. マルチエイジの根幹グループ
イエナプラン校の学級編成は、マルチエイジグループが基本だ。通常、3つの年齢のグループ(4−6歳児グループ、6−9歳児グループ、9−12歳児グループ)から構成される。子どもたちは、3年間を同じ教室の同じグループリーダーの下で年少・年中・年長の三つの立場を経験しながらすごし、それを繰り返しながら小学校を卒業する。つまり、一人の子どもは、低学年グループの年少、年長を経て、中学年グループの、年少、年中、年長を経、再び、高学年グループの年少、年中、年長を経験する。こうすることによって、家族の兄弟関係に似た、年齢差による立場の違いを体験できる。これを、イエナプランでは、将来、社会に出たときに相手の立場を理解して行動するための準備、と考えている。また、こうすることによって、同年齢学年性に起こりがちな、できる子・できない子の固定化を防ぎ、子供の個性や真の意味のリーダーシップが生まれる、という利点も指摘する。

 <イエナプランのマルチエイジの学級編成図>


 <一年後>


3. サークル対話
イエナプラン教育における教室での学習活動では、サークル対話(車座になって話し合う)という形式が、繰り返し使われる。サークルには、特定のテーマを決めずに自由に話合う「オープン・サークル」、前もってグループリーダーや一定の子どもが話題を準備した「準備サークル」、グループリーダーが何かをみなに伝えるためのサークル、何かを一緒に見たりそれについて話し合ったりするサークル、観察サークル、報告サークル、自由作文の朗読サークル、テーマ学習サークルなどがある。
サークルには、グループリーダーも加わり、子どもたちの対話のファシリテーターの役割を果たす。



4. ワールドオリエンテーション
イエナプラン教育では、理科・社会科の区別はなく、ワールドオリエンテーションという総合学習の形態を用いる。ワールドオリエンテーションについての考え方、教材、教育方法、カリキュラムは、オランダで特に大きく発達した。
年間およそ8−9のテーマを決め、学校全体で同じテーマに取り組む。
テーマは、7つの『経験領域』と『時間』『空間』について、循環的に取り上げられる。
7つの経験領域とは

〆遒襪海箸隼箸Δ海函箆働、消費、持続可能性など)、
環境と地形(人の棲息、植物・動物の棲息、住まいとしての地球宇宙環境など)、
巡る1年(1年の中の月日、お祝いや催し、学校の1年など)、
さ蚕僉雰設、機械と道具、大きなシステム、原料とエネルギー、技術をどう使う、など)、
ゥ灰潺絅縫院璽轡腑鵝並召凌佑函⊆然と、また、自然の中で、他の国の人と、など)、
ΧΔ棒犬る(社会に帰属する、共に生きるために、共にひとつの世界を、など)、
Щ笋凌誉検併筺⊃諭后大人たちなど)

さらに、

■時間について:自然の中で時間を測る、時間を使う、時間について哲学する、循環する時間、線形に続く時間など
■空間について:空間を意識する、空間の価値を認めその使用について考える、空間を考慮した思考を発達させる、空間の計測の仕方、空間の表し方(図で、地図で、模型で)、空間と共同社会、空間と自然、空間と時間、空間について哲学するなど

これらの領域を循環して取り上げるが、学習テーマは、具体的なものをあげ、各年齢集団にふさわしい内容で取り組む。

たとえば、『地形と環境』で、動植物の棲息について取り上げた場合、その期間、低学年グループは、<冬の野鳥>を取り上げ、中学年グループは<冬木の枝>、高学年グループは、<冬眠動物>を取り上げる、といった具合だ。

ワールドオリエンテーションは、学校全体で一定期間同じテーマに取り組むことによって、理科・社会に限らず、国語、算数、などの基礎科目の中でもテーマを織り込むことができるし、音楽、演劇、地図の学び、コンピューター検索、英語学習などにもテーマを派生して行なうことができる。また、プレゼンテーションは、クラスの中だけではなく、他学年の子供たちを対象に行なうこともできる。
そうすることによって、学校生活の中に、子どもは意味を見出し、総合的な学習をすることができる。
基本的に、テーマである対象物に対する子どもの『問いかけ』を学習の出発点とし、自分たちがあげた問いを整理して、それに対する答え探しの手順を話し合い、計画して学習を進める、というプロセスに、グループリーダーはファシリテーターの役割を果たしながらかかわる。
サークルを作った話し合いを、クラス単位、小グループ単位で繰り返し、自分の観察だけではなく、他の子供の観察を通じても、知見を広げ、自他の違い、共同の仕方を学ぶ場を与えることも、ワールドオリエンテーションの重要な役割である。



5. 循環する活動・科目によらない時間割
イエナプラン校では、科目ごとの時間割は作らない。基本的に、(サークル)対話−遊び−仕事(学習)−催し(行事や祝い)という4つのパターンの活動を循環させる時間割を作る。
 いうまでもなく、『遊び』は、子どもが音楽に合わせて体を動かして感情を表現したり、演劇作りをするといったものから、教育学上の効果を期待したゲーム遊びなどのことである。『仕事(学習)』は、課題を意識してそれを達成するための活動で、個別に行なう自立学習と共同学習の形態がある。催しは、一般的な祝祭のほか、その学校の特別の行事、子どもやグループリーダーの誕生日、などのほか、毎週週末の最後の時間を1時間ほど利用して行なうミニ学芸会がある。ミニ学芸会は、クラスごとに巡回する形で、年間に、数回準備をすることになる。また、催しは、単に、祝い事や楽しみの共有だけではなく、悲しみを共有する場、としても捉えられる。喜怒哀楽を仲間と共有することで、『共に生きる』ことを具体的に体験させる場、として捉えられている。

 <循環するリズミカルな活動図>



6. 静かな学びの場
イエナプラン校では、子どもが『静かに』黙考する機会を十分に持つことを強調している。そのために、教室では、ブロックアワーといわれる自立学習の時間など、他の子どもの邪魔をせずに、静かに学ぶ環境を子どもと共に尊重する姿勢が貫かれる。それはまた、共同学習の場や、サークル対話の時間を織り込むことで、子どもが自発的に率直に発言しあうことのできる場の確保と表裏の関係にある。
静かな学びの場の尊重は、子どもたちが、何か分からないことについて、すぐに答えを出そうとしたり、グループリーダーや他の子どもに聞いて解決するのではなく、答えのない問いと付き合う訓練でもある。いくつもの答えのない問いを心に抱いて、あきらめずに答え探しを続ける態度が、探究心を養うと考えられる。)



7. ペダゴジカル・シチュエーション(教育学的環境)
教師が一方的に『教え』子どもが一方的に受身に『習う』という教育・学習形態を否定するイエナプランでは、教員や学校経営者の役割は、知識伝達ではなく、子どもが、自発的に学びたいという意欲を持つようになるための、専門的に考え抜かれた、環境づくり、ということが強調される。それは、教室をリビングルームとして、安心し、快適な場として整えることにも現れている。また、教室の中には、子どもの性格やテンポに合わせて、適合的にグループリーダーが選択できる多様な教材が常備されている。
絵や写真やデジタル化された情報ではなく、できるだけ、本物の自然や事物に触れる機会が用意される。そのために、校舎の作り方、校庭のデザインの仕方、学校菜園や動物飼育の場、校外での探索の機会、などが積極的に取り入れられる。
ただし、そうした刺激は、先のワールドオリエンテーションの経験領域などを考慮に入れ、体系的・計画的に企画されたものである、というクローズドなものと、偶発的に子どもの日常的な発見から生まれるオープンなものとがある、という考え方だ。両者を考慮することによって、子どもを考えも無しに自然や外界に放任するといった非教育的な環境を極力回避している。



8. 真正性(オーセンティシティ)
『真正性』は、人間のあり方についてと、学習の対象についていわれる。いずれも、『ホンモノ』という意味と解してよい。
これにより、教員は、何でも知っている、常に教え、導く存在ではなく、子どもたちの中に共に加わった一人の個性を持った人=グループリーダーとして捉えられる。グループリーダーは、子どもたちよりも経験が深いし、教員としての訓練を受けた専門家であると同時に、子どもたちと同じように、現在なお、人間として学び続ける存在ということだ。グループリーダーは、それぞれ、自分の個性を自覚し、自分を磨き続ける存在でなくてはならない。そのために、常に、時事に関心を持ち、新しい知識を求めて探求し、物事に好奇心をもって取り組む存在として、積極的に生きる姿を子どもに示していく存在であることを理想としている。
また、「真正性」は、学習対象についても指摘されることで、架空のイメージ、サンプル、模型といったものばかりでなく、できるだけ、本物に子どもが触れられるように学習環境を作ることが求められる。たとえば、時間や昼夜について学ぶ時には、棒を持って校庭に出、日光によって作られる棒の影を観察し記録すること、植物の形状について学ぶ時には、図鑑に描かれた写真や図だけではなく、実際に戸外に出て、本当の木や花を見ることからはじめるべきだ、という考え方だ。戸外に出てみてみれば、葉の落ちた冬樹であることもあるし、花が開かず蕾の時もある。しかし、その状態こそが、学びの出発点であり、そこから、子どもの学習の起点としての「問いかけ」が始まる。



9. 学校職員のチームワーク
イエナプランの学校活動は、クラス単位ではなく、学校単位で行なわれる機会も多い。クラスの授業は、学校全体の教育計画の枠組みの中で企画される。そのため、学校の職員は、年間計画、月間計画、週間計画などを、全員で話し合い、学校の企画として作り上げていく。
そのためのリーダーシップをとるのが、校長の役割である。この際、校長と他の教職員の関係は、クラスの中のグループリーダーと子どもたちの関係に相似していて、校長は、各教職員が、共同で話し合いをする際のファシリテーターの役割を果た巣ものである、という考え方をする。



10. 保護者との協力的な態度
イエナプラン教育では、子どもの教育は、学校と保護者との協力関係に基づいて行なうもの、という考え方がある。したがって、保護者に対しては、常に、学校での状況をオープンに伝え、保護者の質問に対して率直に答える態度を重視する。また、教育活動の中に、保護者が参加することを勧める。
たとえば、ワールドオリエンテーションのテーマが変わるごとに行なわれる学校の校舎内の飾りつけ、学年のはじめに行なわれる教室内の内装改装(ペンキ塗りや調度品設置など)、パン作りのデモンストレーション、遠足の際の援助、個別指導の補助、小グループでの読みの練習の援助、など、頻繁に保護者が学校活動に参加できるようにしている。


ここに挙げた内容は、ペーターセンの「小さなイエナプラン」のほか、主として以下の参考文献と学校視察の経験を元にまとめたものです。今後、これらの文献の日本語訳刊行の可能性を検討していく予定です。(文責・リヒテルズ直子 随時更新)

*本ページのテキスト・図はリヒテルズ直子氏がまとめたものです。無断転記を禁じます。

1)「ローズガーデン」(De Rozentuin, een beeld van een Jenaplanschool, NJPV) 
架空のイエナプラン工を、理想の姿として描き、実践者に指針を与えるためのもの。
2)「20の原則」(Basisprincipes Jenaplan, NJPV)
20項目の原則について、実践現場の例を挙げながら詳しく解説したもの。
3)「ヤンセンの自転車」(Wereldorientatie,,,met de fiets van Jansen, JAS)
ワールドオリエンテーションの進め方の手引書
4)「21世紀に向かうイエナプラン教育」(Jenaplanonderwijs op weg naar de 21e eeuw)
イエナプランの教員向けの教科書

 

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